6月5日、全仏オープン(フランス/パリ、レッドクレー、)男子シングルス決勝戦。
第1シードのN・ジョコビッチ(セルビア)が第2シードのA・マレー(英国)を3-6, 6-1, 6-2, 6-4の逆転で下して大会初優勝を飾ると同時に、念願であった生涯グランドスラム(全豪・全仏・全英・全米の四大大会で優勝)を達成。さらに昨年のウィンブルドンからグランドスラム4大会連続のタイトル獲得を果たした。
これまで全豪オープンで6度、ウィンブルドンで3度、全米オープンで2度の4大大会計11度のタイトルを獲得していたジョコビッチだが、この全仏だけは優勝カップには手が届かず、過去の全仏オープンでは2012年と2014年はR・ナダル(スペイン)に、昨年は17勝3敗と圧倒的な対戦成績のS・ワウリンカ(スイス)に敗れて生涯グランドスラム達成を阻まれ、夢は儚く消えた。
そのワウリンカに4セットで敗退したときは、さすがの王者もひどく気持ちが落ち込んだが、すぐに立ち直り、ウィンブルドンから勝利を重ね、この赤土のコートに戻ってきた。試合前のインタビューで「シーズンが始まる時、いつも最優先事項が全仏の優勝」と、この赤土への思いは誰よりも強かった。
決勝戦は、R・フェデラーは事前に欠場を決めていたが、R・ナダルは3回戦を前に左手首負傷のために棄権、そんな中で勝ち抜いてきた、世界ランキングの1位、2位が戦う文字通りの頂上決戦となった。
ジョコビッチが勝てば、全仏初優勝と史上8人目の生涯グランドスラム。マレーが勝てば、全仏初優勝とフレッド・ペリー以来81年ぶりのイギリス人チャンピオンの称号と、ジュニア時代から続くライバル同士の夢とプライドがぶつかり合う事となる。
両者は今回が通算34度目の対戦で、ジョコビッチから24勝10敗。今大会の前哨戦であるマドリッド・オープンとBNLイタリア国際の決勝では1勝を分け合っていた。
第1セット第1ゲームでジョコビッチは先にブレークするが、マレーに4ゲームを連取され、第1セットを先取される。生涯グランドスラムという影響からだろうか、セカンドサービス時のポイント確率が、ジョコビッチらしくなく25%台、マレーに早いテンポで攻めこまれ、フォアハンドのエラーを重ねた結果であった。
第2セット第2ゲームでジョコビッチはマレーのサービスゲームをブレークし、3ゲーム連取。その後もマレーに挽回を許さず、セットカウント1-1とする。ジョコビッチのストロークが深く、ディフェンスも強くなる。
そして、第3セットでは2度のブレークに成功したジョコビッチが第4セットもマレーに挽回を許さず、最後はマレーのボールがネットにかかり、世界ランキング1・2位の頂上決戦が終結し、4度目の全仏オープン決勝戦でようやく初優勝を飾り、悲願を達成した。
ジョコビッチがこれほど、強くなった理由の一つに、R・フェデラー、R・ナダルというテニス史上偉大なプレイヤーの存在があるという。
「初めのうち、僕はこの時代の一員であることをうれしく思っていなかった」とジョコビッチは語る。
「僕は人生において、起こるすべてのことには理由があるということに気づいた。僕はある目的、意図のもとにこの位置に置かれたんだと思う。学び、育ち、進化していくという目的のもとに、僕はより強くなる必要があるということ、僕はふたりの素晴らしいチャンピオンたちと競い合っているのだという事実を受け入れる必要があるということに気づいたんだ」
ジョコビッチは強いライバルたちの存在が、より強くなるための道を見つけるよう、彼に努力を強いたのだと信じている。
マレーと握手した後、ジョコビッチはラケットを使って赤土のコートに大きなハートマークを描き、大の字となり、勝利の喜びを赤土と一体となり、噛み締めた。
それは、1997・2000・2001年の全仏オープンを制したG・クエルテン(ブラジル)が2001年の優勝の時をまねたものであり、クエルテンもその光景を観客席から笑顔で見ていた。
気まぐれなローラン・ギャロスの雨も、この日は王者を祝福しているかのような太陽に主役を譲っていた。